福島の伝統工芸品・会津漆器と現代を繋ぐ【漆とロック】

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漆を何度も塗り重ねて作られる会津漆器

会津漆器とは?

皆さんは「会津漆器」をご存知ですか?

会津の地に本格的に漆器生産が根付いたのは、安土桃山時代、豊臣秀吉の命を受けて会津の領主となった蒲生氏郷公が、産業として漆工芸を奨励したことによるとされています。氏郷公は、前の領地であった日野(滋賀県)から木地師や塗師を呼び寄せて、漆工技術を伝承させました。
これによって会津漆器は飛躍的な進歩を遂げ、漆の栽培や木地などの素材の生産から分業による漆器づくりまでを一貫して手がける一大産地となっていったのです。
周辺の山々に自生するトチ、ケヤキ、ホウ等の木材を器の素地として用い、そこに漆を何度も塗り重ねて仕上げられる会津漆器は、日常使いしやすい温もりが特徴です。
会津漆器のある暮らし

会津の地で活動する若きコミュニケーター

貝沼航さん
400年続く会津漆器において、その伝統の先端に立ち、現代の暮らしと漆を繋ぐコミュニケーターとして活動する方がいらっしゃいます。それが漆とロック株式会社代表の貝沼航さんです。貝沼さんは、もともと漆とは全く縁のない人生でしたが、東京の大学を卒業後、会津に移住し、25歳の時に会津漆器の工房を訪れたのがきっかけで漆に魅了されるようになります。
その後、現在の会社を起業し、2015年には循環型の生き方を叶える漆器「めぐる」を発表。
漆の器が持つ心地よい肌触りや口当たり、そして抱き上げたくなる優しいかたちを追求するため、“触覚のアドバイザー”として、暗闇のソーシャル・エンターテイメント「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」でアテンドとして活躍する全盲の方たちに商品開発に加わっていただき創作活動を行っています。
禅の修行で使われる器に範を取った三つ組椀<水平><日月>や漆のさじ<めぐるの匙>を中心に、平皿や酒器・折敷・蓋物椀など、品良くシンプルで使いやすい食器を展開しています。2015年・2020年グッドデザイン賞、2015年ウッドデザイン賞を受賞。

会津漆器に込める想い


漆器の素材や製法のこと、そして会津漆器に魅せられた理由などについて、貝沼さんにお話をお伺いしました。

―漆とは、そもそも日本人にとってはどのような存在だったのでしょうか?

日本は森林資源に恵まれた「木の国」です。ですので、古来より木を素材にものづくりをするということを基本としてきました。漆という天然塗料は、そのような木製品を保護しながら美観や質感を高め長く使っていく、日本の基層文化のひとつなんです。
「漆」という文字は、樹木の中で唯一、木偏ではなくさんずいが使われますよね。つくりの部分の「桼」は木に傷を付けて点々と汁が滴る様子で、これ自体が漆液を採る情景を表しているそうです。昔から人々にとって漆は、その樹液こそが大切なものだったことが伺われます。漆と日本人の付き合いは約1万年の縄文時代に遡るんですよ。
漆の木と樹液
漆の木

―貝沼さんにとって、漆器の魅力とはなんでしょうか?

「木」の優しい音と軽さ、安心する温もり。「漆」のしっとりした艶、ふっくらした肌。そして、日々のごはんが美味しく、やさしく整う嬉しさ。そういったことが、漆器の最大の魅力だと思います。私自身もそうですし、よくお客様にも言われることですが、年齢を重ねていく程に、漆器の良さをしみじみと感じることが増えていくような気がします。

―会津漆器の特徴や魅力はなんですか?

奥会津に広がる山々から木材を切り出し、器の元となる木地を作り、そこに何度も漆塗りを施し、最後に様々な加飾を行う。漆器は分業で作られていきますが、そういった一連の流れがひとつの産地で今でも完結することが、まず素晴らしいことだと思っています。
そして、会津漆器は、気品と奥ゆかしさを兼ね備えた漆器だと思います。雪国の城下町らしく、過度に華やかではない装飾で、会津人の気質が反映されていると感じています。
また、会津漆器は「花塗り」と言って、最後の仕上げ塗りをしたら、そのままふわっと乾かします。その後でピカッと研ぎ上げたりしないので、マット感のある優しい肌合いになります。使っていくと、段々と自然に艶が増していく、「育っていく器」でもあります。
木地の制作
花塗りで仕上げられる会津漆器

―貝沼さんは、そもそもどうして会津漆器に惹かれたのでしょうか?

私は、もともとは生まれも育ちも会津ではなく(福島市の出身)、家業も漆とは全く関わりがありませんでした。東京の大学を卒業後、就職がきっかけで会津若松に移住し、そこでたまたま漆器の工房を見学したことが、魅了されたきっかけでした。漆器という存在はそれまで自分の中で全く「謎なもの」だったのですが、それが生み出される現場を見た時に、「あぁ、漆器って全て樹木の恵みで出来るんだな。そして人の手によって何十年もかけてひとつの器が作り出されるんだな」ということを知って、とても深い感動を覚えました。
その時に、時代に流されずに素材と向き合いひたむきにものづくりを続ける職人さんたちの姿に、信念に忠実な「ロックな魂」を感じたので、社名を「漆とロック」にしました。

―「漆とロック」には熱い想いが込められていたんですね。「漆とロック」の事業や取り組みについて教えてください。

私は、職人さんたちと一緒に漆器を作り、その良さを伝えていくことを仕事にしていますが、この10年ほどでしょうか、「これからの時代にものを作り続けていくことに意味はあるか?」ということを常に考えるようになりました。
もちろん、ものを作る、ものを使う、ということは人間の原点ですが、この百年ほど続いた大量生産・大量消費・大量廃棄型のものづくりは限界に来ており、自然の摂理を超えて無尽蔵にものを作り増やし続ける時代ではなくなっています。これまでの“ものが足りない”時代ではなく、人口が減り“ものが余っていく”時代の中で、どんなものづくりを目指していくのか。
漆器産業も、これまでは大量生産の波に飲み込まれてきた側面もありますが、むしろ日本の中で古来から続きてきたものづくりこそ、自然と共生する循環型のものづくりを取り戻していかなければいけないのではないかと考えています。本来、漆はその力を持っているわけですから。

そこで私たちの「めぐる」という漆器は、“適量・適速生産”を掲げ、年間1,000椀・年1回だけの予約生産というかたちを取っています。器の素地になるトチノキや上塗りで使う漆の液は、会津や東北の木こりさんや漆掻き職人さんから素性の分かるものを数年先の制作を見越しながら直接仕入れています。それをもとに毎年、冬の3ヶ月間だけ受注期間を設けて、ご予約いただいた皆さまの器をまとめて春から秋まで作っていきます。多すぎず少なすぎず、まとまった数を適切な時間をかけて最適な気候に応じて作ることで、国産の素材を有効に保護・活用でき、職人さんたちも安心してしっかりした制作ができ、確かな品質の漆器に仕上げることができます。

同時に「めぐる」では、お客さまにお待ちいただいている期間のことを“とつきとおか”と呼び、季節のお便りや動画で制作過程(ご自身の器が育っていく様子)をお伝えしています。そうしてお迎えいただいた器は、塗り直しや補修など、お直しの仕事を産地の若手の職人たちが担当し、世代を超えて長く使っていただけるものになります。さらに、器の売上の一部は会津での漆の木の植栽活動に寄付されます。「めぐる」という名前の通り、素材も作り手も使い手も、世代を超えて良い循環の中で育まれていくことを願った器です。
めぐるの漆器
商品開発には、視覚に障害を持つダイアログ・イン・ザ・ダークのアテンドの特別な感性が活かされている

―漆の木を植える活動もしていらっしゃるんですね。

はい、特に今年度からは新たに、塗り師の平井岳さん、農家の土屋勇輝さんと一緒に任意団体を立ち上げ、猪苗代町の耕作放棄地で漆の試験植樹をスタートしました。里山の農地における獣害問題と国産漆の供給不足という2つの問題を同時に解決し、地域に賑わいや人の交流を生み出すために始めました。国産漆を守るための新しいモデルづくりを目指していますので、その新たなチャレンジの現場を多くの方に見ていただきたいと思っています。
左から平井岳さん、貝沼航さん、土屋勇輝さん

―最後に、皆さんにメッセージをお願いします。

うるし、その語源は、うるわしやうるおしと言われています。薄く霧のかかった静かな湖面のように、しっとりと美しい漆の肌に是非触れてみてください。
人は一生のうちで8万回も食事をするそうです。これからどんな器と一緒に生きていきますか?
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